従業員への金銭の貸付には利息を。前借りの希望に応じるのはNG
利息をつければ給与として課税されない
決められた給料でのやりくりを心がけていたとしても、イレギュラー事象が生じ、短期間で多額の金銭が必要になることは誰にだってあり得ます。従業員がそのような状況に陥った場合に金銭を用立てるために、福利厚生の一環として従業員貸付制度を導入するのも1つの手段でしょう。
しかし、従業員貸付制度を導入する際に気をつけなくてはいけないことがあります。一部の例外を除いて、従業員だからといって無利息で貸し付けるのはやめたほうが無難です。所得税法および所得税基本通達においては、会社が役員や従業員に対し金銭を貸し付ける場合の利息相当額について定めがあります。[1]
仮に、この定めを下回る利息(無利息も含む)で金銭を貸し付けた場合は、一部の例外を除き、定めにおける利息額と実際に支払う利息額との差額が給与として課税されるので注意しましょう。
なお「一部の例外」とは、具体的には以下の3つのケースを指します。
- 災害や病気が原因でまとまったお金が必要になったので、合理的な範囲で貸し付けを行う
- 借入金の平均調達金利など合理的な利率を決め、その範囲で貸し付けをする
- 定めにおける利息額と実際に支払う利息額との差額が年間5,000円以下だった
「前借りさせてください」に応じるのはNG
従業員が金銭に困り、会社に「給料の前借りをさせてください」と言ってくることがあるかもしれません。しかし、これには絶対に応じないようにしましょう。労働基準法では、出産・結婚・病気・災害などの理由で緊急にお金が必要になった場合、給料日前でも給料を払うよう定めています。[2] しかし、これはあくまで「既に働いた部分についての給料を、給料日より前に支払う」という意味です。
前借りだと「まだ働いていない部分についての給料を借りて、後々働いて返済していく」という意味になります。つまり、従業員が後々「やっぱりこの会社辞めたい、でも給料を前借りしているから辞められない」という状態に陥ることもあるのです。これは、労働基準法第5条において禁止されている強制労働に当たる可能性があります。いずれにしても、会社と従業員との間で、深刻なトラブルに発展するおそれがあるので、注意しましょう。
そのため、仮に従業員から「給料の前借りをさせてください」という申し出があったら、まずはどういう理由でお金が必要なのかを聞きましょう。出産・結婚・病気・災害など合理的と認められる理由であったら、既に働いた分の給料を前払いする形で対応するのが無難です。また、それでも足りない可能性がある場合は、従業員貸付制度を通じて借入をするよう促しましょう。
なお、従業員貸付制度を導入する際は、就業規則の一部として社内貸付規定を作成し、労働基準法に定められた手続きを経なくてはいけません。抜け・漏れがないようにするためには、社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めましょう。